新型コロナウイルスに花崗岩が効く!?という、にわかに信じがたいニュースがタイムラインに流れてきた。「花崗岩には殺菌作用があるから、コロナウイルスに効果がある」ということらしい。調べてみると実際にフリマアプリで高額に出品されており、そのことで河川敷の石がなくなるのではないかという書き込みもあった。この転んでもただでは起きない感じにやるせ無い気持ちと共に関心を寄せてしまった。この時に思い出したのが、漫画家つげ義春さんの作品「無能の人」に出てくる石屋の話。そしてポルトガルに伝わる民話「石のスープ」である。
飢えた旅人が民家に食事を求めて立ち寄ったが、食べさせるものはないと断られ、一計を案じて、路傍の石を拾うと、もう一度民家にかけ合う。
「煮るとスープができる不思議な石を持っているんです。鍋と水だけ貸してください」
興味を持った家人は旅人を招き入れ、旅人は石を煮始めると「この石はもう古くなっているので濃いスープになりません。塩を加えるとよりおいしくなるのですが」と説明する。家人は塩を持ってくる。旅人は同じようにして、小麦と野菜と肉を持ってこさせる。できあがったスープは見事な味に仕上がっていて、何も知らない家人は感激してしまう。旅人はスープのできる石を家人に預けると、また旅立っていく。
この話を教えてくれたのは、東京の六本木ミッドタウンで石屋をやったときのことで、たくさん並べた石を前にしてgreenz.jp代表の鈴木菜央さんが教えてくれたのだった。つげさんの石屋の話にインスパイアされ、その滑稽で、それでいて哀愁のあるお話が好きだった僕としては、この石のスープの話を聞いてすごく面白いと思ったのだった。
最近は誰かの家に行ってご飯を食べるというのが、コロナのこともあってすごく減ったのだけど、一品持ち寄り式のご飯会とか、手分けして夕飯作るみたいなやつが、僕はとても好きなのだ。持ってきた野菜がかぶっちゃうとか、お酒ばっかり持ってきちゃうとか、何でこのタイミングでマック買ってきた?みたいなそういう状況の中で美味しいと楽しい、それに面白いが混在して、煮込まれていく感じがたまらなく好きなのである。
元々石拾いは好きだったのだが、あれから煮るとスープができる不思議な石のことをずっと探している。パンが美味しく焼ける石でもいいし、もちろんコロナウイルスに効果がある石ならば尚更のことだ。
難点としては、頃合いのいい石を拾っても、その場でスープができるかはわからないことだ。一度持ち帰って水に入れてみる必要がある。煮詰めてみて味見をしてスープになっていれば、それは煮るとスープができる不思議な石となるわけだ。そして煮てもスープができない不思議な石が山積みになっていく。そういうわけで河川敷や海辺を歩いているとポケットが石でパンパンになる。ずり下がるズボンをたくし上げながら、いつだって石拾いを続けるのである。
そして、いつか誰かの家に訪ねていって、言うのかもしれない。
「煮るとスープができる不思議な石を持っているんです。鍋と水だけ貸してください」
その時にはぜひみんなも来てほしい。もちろん肉や野菜や持参でお願いしたい。美味しいと楽しい、それに面白いを一緒に煮詰めようじゃないか。