2014年の秋、リアという女性が建具職人のクリストファーに相談の連絡をしたのがすべての始まりでした。
言語療法士であるリアは、慢性的な股関節障がいがあり、常に松葉杖を使用していました。彼女は病院が提供するアルミニウムの松葉杖を好まず、18歳のときに「Runestokken(ゴーネストックン)」という小さな会社からスタイリッシュな松葉杖を購入しました。しかし、交換する必要が出てきた20年後、会社はすでになくなっており、リアはふたたび新しい杖を探さなければならなくなってしまいます。
リアは知り合いに会うたびに松葉杖を修理する人や職人を知っているかどうか尋ね、とある家族から何でも修理をすることのできる熟練の建具職人、クリストファーの連絡先を入手しました。
リアはすぐにクリストファーに電話をかけ、助けを求めました。そのとき彼はお客さんの家に新しい窓をつけようとしていましたが、快くこう返事をします。
「もちろん。30分で家に帰れるから、そこで話そう」
このとき、リアはすでにクリストファーの家の前に車を停めていました。
クリストファーとリアはコーヒーを飲みながら松葉杖について対話をし、2人で理想の松葉杖のデザインを描きはじめ、大いに盛り上がります。そしてクリストファーは賢明に結論を出しました。
「あなたの松葉杖を直すことはできない。ただ、新しいものをつくることはできる。問題はなにもないよ、ただの棒とハンドル、アームレスト(肘掛)をつくればいいのだから…。」
しかし、最初のプロトタイプ(試作品)ができあがったのはその8ヶ月後のこと。


松葉杖というものは見た目よりとても複雑であり、そのうえ人体にもろに影響を与えます。彼は作業をしながらそれを痛いほど実感し、“ただの松葉杖”を乗り越えなければならなくなりました。そして、親友である技術者のトーマス・ハーツに協力を要請したのです。
金属のスペシャリストであるトーマスは、クリストファーが描いた杖のラフを見ながら図面を作成し、モデルを試し、2人で問題をひとつひとつ解決していきました。さらに自宅の庭先にアトリエを建て、そこに大掛かりなマシーン(CNCルーターとCNC旋盤)を設置し、作業環境を整えたのです。
ようやく最初の松葉杖を市場に出す準備ができたのは、リアがクリストファーの家で最初のコーヒーを飲んだ2年後のこと。さらに、リアのための松葉杖の図面から4つの異なるモデルを生み出します。テストの過程でリアと職人たちは多くのコーヒータイムを共にし、今ではすっかり親しい友人となりました。
そして2017年、クリストファーとトーマスは互いの名前の一部(Kristoffer “Vilhelm” Pedersen,Thomas “Hertz”)を取って、「Vilhelm Hertz(ヴィルヘルム ハーツ)」というブランドを立ち上げたのです。
