暖かくなると帰りが遅くても体がまだ軽くて、家に着くまでにもう少しとりとめのない散歩をしたくなります。そんなときにいつも思い出すのは、Henning Schmiedtのアルバム、“Spazieren”(ドイツ語で”散歩”)のことです。
私の20代の春は始まって4度目になります。このアルバムは20代初めての春に、アルバイト先の映画館で、朝の掃除のBGMとして流れているのを耳にしました。繊細で雫のようなピアノのタッチ。きらめく音の連なりは、初めて出会った時から心を離しません。
このアルバムを私に教えてくれた人は「”日常”が好き」と言っていました。決して派手ではないシュミッドの音楽は、他愛のない毎日がいかに奇跡的であるか語り掛けるようです。全ての人の美しい時間に、そっと野の花を添えるような曲たち。こんなときだからこそ過ぎていく日常をじっと見つめ、自分の心の中を気楽に散歩してみるのもいいかもしれません。
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