『Nach Hause』Henning Schmiedt selected by塩塚モエカ(羊文学)

selected by塩塚モエカ

暖かくなると帰りが遅くても体がまだ軽くて、家に着くまでにもう少しとりとめのない散歩をしたくなります。そんなときにいつも思い出すのは、Henning Schmiedtのアルバム、“Spazieren”(ドイツ語で”散歩”)のことです。
 私の20代の春は始まって4度目になります。このアルバムは20代初めての春に、アルバイト先の映画館で、朝の掃除のBGMとして流れているのを耳にしました。繊細で雫のようなピアノのタッチ。きらめく音の連なりは、初めて出会った時から心を離しません。
 このアルバムを私に教えてくれた人は「”日常”が好き」と言っていました。決して派手ではないシュミッドの音楽は、他愛のない毎日がいかに奇跡的であるか語り掛けるようです。全ての人の美しい時間に、そっと野の花を添えるような曲たち。こんなときだからこそ過ぎていく日常をじっと見つめ、自分の心の中を気楽に散歩してみるのもいいかもしれません。

TIP PONDOはアーティストのセレクト、コラムに共感していただけた際の投げ銭となります。

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塩塚モエカ Moeka Shiotsuka (羊文学) 

1996年、東京生まれ。羊文学のギターボーカル。全楽曲の作詞・作曲を務める。 
2017年『トンネルを抜けたら』でデビューし、今年2月5日には新作EP『ざわめき』を発表。恵比寿リキッドルームでファイナルを迎えたワンマンツアーは全てソールドアウトに。今年8月開催予定のFUJI ROCK FESTIVAL‘20への出演も決定した。しなやかに旋風を巻き起こしている。 
ソロ活動では、羊文学とは異なる楽曲を、時にボーカルエフェクトも使いギター弾き語 
りで演奏。浮遊感のあるパフォーマンスが特徴的。 
そのアイコニックでフォトジェニックなキャラクターから、ファッションブランドや広告でのモデルを務めたりと活動の枠を拡げている。