明日は休日だ。
できることならば、予定は決めずにふらりと町へ出たい。
路地から路地へあてもなく歩く一日。
小脇にカメラを抱え見知らぬ町の一部になる。
なるべく大通りを離れ、生活の気配が感じられるような道など見つけられたら最高だ。
町の人々の暮らしを想像し、猫との遭遇などを期待しつつ、歩を進める。
右へ行くのも左へ行くのも自分次第。この角を曲がった先にはどんな景色が広がっているだろう。
疲れたら目についた喫茶店へ。常連さんの様子を横目にコーヒーをすすりつつ、ほっと一息、その場の雰囲気を味わう。喫茶店のマスターの年季の入った所作、常連さんとの会話、十数年と続いてきた景色。自分が町の一員になることを思い浮かべては、この町なら楽しく暮らせそうだな、なんて気楽な考えをふくらませる。
夕暮れ、少し身近になった町の日常とコーヒーの香りを背にふたたび外の世界へ。天気とタイミングが良ければ、日没前の色づいた陽が世界を照らしているかもしれない。マジックアワー。まるで魔法のように美しい写真が撮れる時間。どこに行くあてもない休日を彩る光のもと、昨日まで考えていた悩みは少し軽くなっている。そんな明日を想う。
店にいるといろいろな人がくる。最近印象に残ってるのは、いつからか店に来るようになった東南アジア出身の彼。月に何度も、多い時は週に2~3度来ては、お茶をして帰っていく。
ここまでは至って普通の話なのだが、彼の住まいは大阪でうちの店は京都。移動手段は自転車なのだ。最初の頃はママチャリに乗って片道5時間かけて(うる覚えだけど)京都まで来ていた。ほぼ毎週。
ママチャリはある日を境に、より早く走れるクロスバイクになった。中古のお値打ち価格で購入したもの。自分に無理ない範囲でフィットするものを試し、大事にメンテナンスをして使っている。なんならスタッフの汚れたチェーンまで綺麗にしてくれる。
数ヶ月前にサイクリングロードを発見した時の彼は輝いていた。きらきらとした瞳でいかに早く京都までたどり着けたかを嬉しそうに語り、雨の日に来るのは大変じゃないかと問えば、出身地は雨が多くて慣れているし、もともと雨が好きなんだと答える。
まだ梅雨明けきらぬ関西だが、夏休みになった彼は早速顔を見せてくれた。五条で1泊して、今日は滋賀にいるらしい。
どこかで夜を越すと聞いて、”もしかしたら迷惑にならない場所で野宿してるかもね”なんて話しては、それすらも楽しんでいる姿を想像し、僕は彼の眩しさに目を細めそうになる。明日の彼はどんな一日を過ごしているのだろうか、話しを聞くのがいまから楽しみである。